東京地裁が国立市の上原公子元市長への請求を認めず【上原さんが国立市に勝訴】

1 2014年9月25日、東京地裁703号法廷で、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」と増田稔裁判長が述べた。「よし!!」と心の中でガッツポーズをした。傍聴席から拍手が沸き起こった。裁判長が傍聴席からの拍手を注意したが、笑みも浮かべた穏やかな注意であった。
 2011年12月21日の国立市による提訴から約2年9か月後の判決であった。この判決は、当事者、支援者、弁護団のチームワークで勝ち取ったものであった。個人的にも、学生時代に国立の大学通りを通っていた者として、負けられない闘いであった。そのため、喜びは大きかった。
 この訴訟は、単に上原さん個人の問題にとどまるものではない。東京都国立市の大学通りの景観を守るために市民が行ってきた運動がどのようなものであったのかが問われていた。また、政策を実行する過程で首長が第三者に損害を与えた場合に、首長個人が巨額の支払いを命じられることになれば、首長は思い切った政策を実行することができず、地方自治の停滞をもたらすことになりかねない。上原さんに支払いが命じられることによってもたらされる弊害が懸念されていた。
2 国立の大学通りに面した高層マンション建設問題をめぐり、2005年12月、東京高裁が、国立市に対して、2500万円の損害賠償金と遅延損害金を業者に支払うよう命じる判決をして、この業者に対する損害賠償訴訟判決が確定した。2008年3月、国立市が、業者に対して、遅延損害金を加えた約3123万円を支払った。2008年5月、業者が、国立市から支払われたのと同額の金額を国立市に寄付をして、一件落着となったはずであった。ところが、一部の住民が住民訴訟を起こし、東京地裁が、国立市に対して、当時の国立市長であった上原さんへの請求を命じる判決を出し、これに対し、国立市が控訴をしたものの、佐藤一夫現国立市長が控訴を取り下げ、この住民訴訟判決が確定してしまった。
 今回の訴訟は、国立市が、上原さん個人に対して、約3123万円と遅延損害金の支払いを求めた求償権訴訟(地方自治法242条の3第2項)であった。
 今回の判決で、東京地裁は、2013年12月19日の国立市議会における求償権放棄議決について検討し、①国立市の財政における計算上は、損害賠償金の損失が同額の寄付がなされることによって事実上解消されたものと見ることは可能である、②上原さんの行為について、特定の企業の営業活動を狙い撃ち的に妨害しようとして行ったわけではなく、景観保持という自身が掲げる政治理念に基ついて行ったものであり、それによって上原さんが何らかの私的利益を得ているわけではない、上原さんの政治理念が民意の裏付けを欠く不相当なものであったと認めることはできない、③仮に、業者との損害賠償請求訴訟判決や住民訴訟判決の判断を前提とするとしても、上原さんの行為が違法性の高いものであったと認めることはできないとして、議会の放棄議決が議会の裁量権の範囲の逸脱又は濫用に当たるものと認めることはできないとした。そして、佐藤現市長が、地方自治法176条に基づいて放棄議決を再議に付する手続をとっていないにもかかわらず、上原さんに対して求償権放棄の意思表示をしないことは、普通地方公共団体の長としての権限を濫用するものといわざるを得ず、国立市が上原さんに対して求償権を行使することは信義則に違反するものとして許されないとした。
3 この訴訟の中で大きな意義があったことは、市民3人の証人尋問が行われたことであると思う。市民団体の結成や地区計画の策定が、当時の国立市長であった上原さんの扇動によるものではなかったことが、法廷で具体的に明らかにされた。そもそも、市民運動が首長からのトップダウンで行われるような単純なものではないということが、業者との損害賠償請求訴訟判決や住民訴訟判決では理解されていないようだった。
 この事件は、事実の見方や事実の重みについて考えさせられた事件である。裁判所に対して、どのように事実を伝えていくのか、これは悩ましいテーマではあるが、代理人としての力量が問われるところである。
(中村晋輔)
    

.28 2014 【事件報告】 comment0 trackback0
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