「工事中止」に揺れる地元-群馬・八ッ場ダム建設現場を訪ねて

 この夏に2泊3日で、群馬県・長野原町にある川原湯温泉を旅行しました。ここは、建設を続けるのか、それとも中止するかで、全国的に注目されている八ッ場ダムの建設現場です。
 川原湯温泉は、800年ほど前に源頼朝が狩りの最中に発見したといわれる由緒ある温泉です。美しい吾妻川の渓谷の道路沿いに、旅館が立ち並んでいます。江戸時代から続く老舗の温泉旅館もあります。
 ところが、1967年に八ッ場ダム建設が決定され、川原湯温泉は水没予定地になりました。以降、激しいダム反対運動が展開されてきたのですが、結局、建設を受け入れやむなしとなり、住民は次々集落を離れ町はすっかりさびれてしまいました。
付替道路などの建設も相当進んでいた段階で、昨年の総選挙で八ッ場ダム工事中止を掲げる民主党政権が誕生し、建設問題があらためてクローズアップされたのでした。
 私は、清々しい渓谷をハイキングしたり、温泉を楽しんだりして「こんなに良いところを水没させるのはもったいない」「工事はなんとか中止になってほしい」と感じました。ですが、40年以上にわたってダム建設問題に翻ろうされてきた地元の住民たちの思いは、そう簡単に割り切れるものではないことも今回身にしみて感じました。
 私が泊ったのは、江戸時代から続く旅館でした。昔ながらの趣に味わい深さと居心地の良さが感じられました。温泉のお湯の量が豊富で、食事も美味しく、施設が今風でなくても気になりませんでした。
ですが、趣のあるこの宿をこの秋で閉めるというのです。
私は「もったいない、せっかく建設中止になりそうなのだからここで続けないのですか」と尋ねました。ですが、たとえダム建設が中止になったとしても、今の宿を閉めて、移転することは既定路線で変えられないといいます。
住民たちは、この場所以外での生活することを前提に動き出しており、やっとの思いでつくった新しい生活の計画を邪魔されたくないという気持ちなのでした。宿の仲居さんからは「何年か先にはまた開業するでしょうから、その時にはぜひおいでください」と言われました。
 ダム建設工事では、競争入札を行わないで受注している企業が、国土交通省から多数の天下りを受け入れていることが分かっています。また、ダムそのものの必要性も否定されています。そして何より、貴重な動植物を要する自然と豊富な源泉が水没してしまうのです。
 今回の旅行を通じ、八ッ場ダムの建設計画自体が安易だったのではないかという思いを強くしました。
安易で無謀な計画でも、いったん進んでしまったら途中で中止できないということになれば、今後も、無謀な公共工事をごり押しする動きは止まらないでしょう。しかし政権交代で中止になることもあると思えば、計画段階でより慎重に工事の必要性を検証することにも繋がるのではないかと思います。
 とはいうものの、八ッ場ダムに関しては、今ここで地元住民の確かな生活再建計画なしに工事中止を強行することは、結局、地元の意向を無視して建設を進めたときと同じように禍根を残すのではないかと思われました。地元住民の生活再建とダム建設の中止がうまく両立する形を追求していくことが必要だと感じました。
 救いは、地元のお店のおばあちゃんから「政権交代の後、一方的に工事中止を言われ頭にきました。ただ、その後、少しずつ、ダムができないならできないで、どうやって生活再建をしていくか考えていこうという雰囲気にになってきています」という話を聞いたときでした。
ダム建設の先行きは不透明ですが、地元の方々が、一日も早く、誇りに思うことができる、美しい郷土を取り戻すことができるよう心から願っています。(西村紀子)

                       
.13 2010 未分類 comment0 trackback0
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