年金違憲裁判提訴!

1 2015年7月15日,神奈川でも年金引下げ違憲裁判が提訴されました。
  本件は,2013年12月4日,厚生労働大臣の国民年金・厚生年金保険の各年金減額決定により,年金受給額を減らされた原 告たちが,その減額決定の違憲性・違法性を争っている事件です。

2 ところで,国民年金制度は,国民年金法の1条に「国民年金制度の目的」として「国民年金制度は,日本国憲法第25条第2項に規定する理念に基づき,老齢,生涯または死亡によって国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によって防止し,もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする」と規定されています。 
つまり,年金制度は,憲法25条「健康で文化的な最低限度の生活」を国民に保障するため,憲法25条の具体化として作られた制度です。
  ですから,政府は,本来ならば,「年金」だけで,健康で文化的な最低限度の生活が送れるような年金制度を構築しなければならないはずです。
  しかし,現実には,国民年金だけを受給している方は,月額7万円程度の年金しか受領していません。
  低額の国民年金だけで生活している年金生活者の中には,食事の回数を一日3回から2回にしたり,暑くてもエアコンは使わないなど水光熱費を節約し,少ない食費の中から,8%の消費税を支払って,ぎりぎりの生活を送っている人も存在します。こういう人は,病気になっても治療費が支払えないので,病気になったらもう一人では暮らせないのです。

3 また,現在年金を受給している方は,現役時代に「今からこれだけの年金を支払えば,引退した後,これだけの年金が受給できます。若いときに苦労するか,年をとってから苦労するか,貴方が選ぶことができます。」といわれて,必死で年金保険料を納めてきたはずです。
  ところが,実際に年金を受給できる年齢になったら,昔にした約束は反故にされてしまう,こんなことが許されるのでしょうか。
  私たちは憲法29条で財産権が保障されています。このような年金支給額の引き下げは,憲法29条に違反するものといえます。
  現実に、政府の答弁でも、既裁定者(すでに年金をもらっている人)の年金の受給権は憲法29条に保証される財産権である、とされています。
  とすれば、この、憲法上保障された「年金権」を制限するには、これを制限するには後述の通り,これを後の法律で減額することは、それが合理的な制約として容認されるべきと認められない限り,許されない(憲法29条、最高裁大法廷昭和53年7月12日判決)。

4 このような年金制度の改悪に対して,年金者組合が中心となって,全国で,12万人以上の方が年金引下げに対する審査請求・再審査請求運動が取り組まれました。
  この運動に取り組んだ方が原告となり,2015年2月には全国に先駆けて鳥取において24名を原告として,年金引下げ違憲訴訟が提訴されました。
  鳥取に続き,徳島・札幌・山口・島根が同様の訴訟を提訴し,5月29日には,東京など全国一斉の提訴がなされました。

5 年金受給額の引き下げの問題を考えるとき,最も重要な事実は,この問題は,世代間の対立の問題ではない,ということです。
  政府は,概ね「受給世代とそれを支える世代のバランスが悪すぎる。それに年寄りはたくさん金を持っている。だから,年よりは若者の負担を減らすために,年金が減らされても文句を言うな。年金制度を持続させるためには,年寄りが増えたらその分一人当たりの年金を減らしていかなければならないのだ。」といったような説明をしています。
しかし,そもそも年金制度は,政府が温情的に我々に与えてくれたものではなく,憲法25条の生存権の具体化として作られた制度です。
とすれば政府は,まず憲法25条の規定に則って年金を国民に支給しなければならないことが第一義的に求められ,そのための財源については別に考えなければならないのです。すなわち,金がある分に限って,国民に分けてあげるのだ,という政府や現役世代による「恩恵」の制度ではなく,我々が憲法25条で補償された健康で文化的な最低限度の生活を送る「権利」を全うできる制度を構築しなければならないという憲法上の「権利」に基づく「政府の義務」なのです。

6 このような意義に基づき,神奈川では255人の年金受給者が立ちあがり,7月15日,横浜地方裁判所に,年金引下げ違憲訴訟を提訴しました。
  この弁護団は,弁護団長として増本一彦弁護士を迎え,代理人名簿には総勢71人が名を連ねています。
  年金制度は,世代間格差の問題ではなく,憲法25条の生存権,憲法29条の財産権の問題です。すなわち,国民すべてが,豊かで人間らしい暮らしを送ることができるかどうかという問題です。

  皆様の大きなお力添えをどうかよろしくお願いいたします。
(弁護士高橋由美)
.29 2015 社会保障 comment0 trackback0

会社が社会保険に入ってくれない!どうすればいい?(下)

3 平成19年以降、年金問題が噴出して、年金を管理していた旧社会保険庁職員が批判を浴びました。
確かに、問題もたくさんあったかもしれません。ですが、会社から社会保険料を徴収する職員の方達は、仮に真面目に仕事をしようとしても、いくら人手があっても足りなかったのではないかと思います。
徴収をできなければ自分が責任を問われる、しかし納付義務を負う会社に言うことを聞かせる権限が不十分で言うことを聞かない会社は後を絶たない。期間が限られ権限が不十分な中、自分の責任問題と会社の違法な対応との板挟みになっていた可能性もあったと思いますし、現にあると思います。
 職員達に労働者の財産である社会保険を死守することを求めるならば、それに見合う制度にする、例えば保険料徴収の時効期間を税金並の5年間位にして適用逃れを困難にし、かつ、未納の刑罰を強化するなどの体制を整え、司法も損害賠償に関する道を開くなどが必要なのではないかと思います。
 特に厚生年金は労働者の老後を支えるものであり、社会保険料は労働者の賃金といっても過言ではありません。税金以上に擁護の体制を厚くしてもばちは当たらないと思います。
4 では、現に会社が社会保険に入れてくれないという事態に直面した場合、どのように対応したらよいでしょうか。
 その場合、自分が適用対象となる労働者であることを証明できるもの(労働契約書、給与明細書、タイムカード等)を持参して年金事務所に行き、確認請求(厚生年金保険法第31条第1項)を行うようにしてください。
 厚生年金保険法第75条により「保険料を徴収する権利が時効によって消滅したときは、当該保険料に係る被保険者であった期間に基づく保険給付は行わない。ただし、当該被保険者であった期間に係る被保険者の資格の取得について…第31条第1項の規定による確認の請求があった後に、保険料を徴収する権利が時効によって消滅したものであるときは、この限りではない」とされており、確認請求を行った時点から過去2年分までは、確認請求後に仮に保険料徴収権の時効期間が経過しても、保険給付については回復が可能になるのです。
 ただし、2年分については労働者負担分の社会保険料を支払わなくてはならなくなります。また、健康保険については、国民健康保険を遡って脱退し、社会保険に遡って加入することになるため、医療費の返還等の問題が発生してしまいます。これらのことには注意してください。
 年金事務所に出向いても資格の確認請求が認められないこともよくあります。その場合は、社会保険労務士か弁護士に相談をしてください。(西村紀子)
.12 2010 社会保障 comment0 trackback1

会社が社会保険に入ってくれない!どうすればいい?(上)

1 労働事件の相談を受けていると「社会保険に入って欲しいと言っても 会社が入れてくれない」との訴えを聞くことがあります。ほかにも「入社時に会社が社会保険の加入は任意であるかのような説明をして加入させなかった」「社会保険料を給与から天引きしながら実は納付していなかったことが解雇された後判明した」「会社が経営が苦しいと言って社会保険を違法にやめようとしている(社会保険事務所に会社の違法手続きを止めるように訴えても社会保険事務所も聞いてくれない)」といわれることもあります。
 従業員を社会保険に加入させたくないという会社は、現実にたくさん存在しています。会社も社会保険料を負担しなければならないからです。
2 社会保険は、会社等法人については強制適用とされています(厚生年金保険法第6条第1項2号)。労働者を社会保険に加入さえると、会社と労働者とがそれぞれ標準報酬月額に基づいて算出される社会保険料を負担しなければなりません。
 この社会保険料を払いたくなくて従業員を社会保険に加入させないで働かせている会社が、堂々と存在しているのは、それを許してしまう今の社会保険の制度にも原因があります。私は、社会保険の制度的な欠陥が、平成19年以降大きくクローズアップされた数々の年金問題、なかでも、“給与から天引きされていたはずなのに社会保険庁のデータに反映されていない”という「消えた年金記録」問題、“厚生年金の標準報酬等の記録が遡って変更されていた”という「消された年金記録」問題を発生させた原因にもなっていると思っています。
 強制適用の建前をとりながらも、保険料を徴収できる時効期間はわずか2年(厚生年金保険法第92条第1項前段)で、税金の徴収権の時効が5年間とされていることと比較しても極めて短いものになっています。違反に対する法律上の罰則も大したことありません(6月以下の懲役又は50万円以下の罰金。厚生年金保険法第102条)。そして、裁判でも、社会保険料の納付について会社に違反があっても、経済的損害(年金給付額の減額金額等)を数字で具体的に立証できない限り、民法上の債務不履行や不法行為による損害賠償請求はほとんど認められません。かろうじて慰謝料が認められる可能性はわずかながら出てきていますが、文字通り雀の涙です。将来の年金額が分からない若い労働者による損害賠償請求の道は事実上閉ざされているのです。
 このように、労働者の社会保険・年金を守る体制は極めて脆弱です。
 このような体制では、社会保険料をごまかそうと考えるズルい会社はいくらでも出てくるでしょう。(つづく)
.12 2010 社会保障 comment0 trackback1
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