米軍に対する捜査のあり方が問われた米海軍横須賀基地銃刀法違反被疑事件 

 2013年8月に実施された米海軍横須賀基地の基地開放イベント「ネイビー・フレンドシップデー2013」において、米海兵隊員らが子どもを含む来場者に対して銃器の体験をさせた銃刀法違反被疑事件について、横浜第一検察審査会は、2015年10月15日、当時の米海軍横須賀基地司令官らに対する不起訴処分を相当とする議決をしました。
 残念ながら起訴相当や不起訴不当という結論ではありませんでしたが、横浜第一検察審査会は意義のある判断をしました。
 横浜第一検察審査会は、当該銃器について、「銃弾の装填の部分を除けば金属製弾丸を発射する機能そのものは失われていなかったものと認められる」、「銃刀法第2条1項の『銃砲』にあたると考えられるから、この点における検察官の判断は相当とはいえない。」と判断しました。
 また、横浜第一検察審査会は、来場者に銃器を触れさせた米海兵隊員らの特定について、「人物の特定については多少捜査が不十分であった感があることは否めない。」と指摘しました。
 日米地位協定の実施に伴う刑事特別法14条1項は、「協定により合衆国軍事裁判所が裁判権を行使する事件であつても、日本国の法令による罪に係る事件については、検察官、検察事務官又は司法警察職員は、捜査をすることができる。」と規定しています。本件は銃刀法違反被疑事件ですので、日本国の法令によって罰することができる罪で合衆国の法令によっては罰することができないものとして、日本国の当局が専属的裁判権を行使する権利を有する事件(日米地位協定17条2項(b))であるというべきですから、日本の捜査機関が捜査をすることができるのは当然のことです。
 この点、来場者に銃器を触れさせた米海兵隊員らについては、申立人らが提出した写真に基づき米軍に対して照会をかければ、容易に人物特定をすることができたはずですから、検察官が米軍に対して踏み込んだ捜査を行わなかった、あるいは、米軍が検察官の捜査に協力しなかったことが推測されます。これは、日米地位協定17条6項(a)が「日本国の当局及び合衆国の軍当局は、犯罪についてのすべての必要な捜査の実施並びに証拠の収集及び提出について、相互に援助しなければならない。」と規定していることに抵触する重大な問題なのではないかと思われます。
 本件については、神奈川新聞の社説(2015年10月29日)にも取り上げられましたが、米軍に対する日本側の捜査のあり方が問われた貴重な検察審査会議決といえます(弁護士中村晋輔)。
.11 2015 基地問題 comment0 trackback0

大きな前進とともに課題も残った第4次厚木基地騒音訴訟東京高裁判決

1 自衛隊機の夜間早朝飛行差止めを命じる
平成27年7月30日、東京高裁(齋藤隆裁判長)は、第4次厚木基地騒音訴訟の判決を言渡した。東京高裁は、国に対し、将来分を含む損害賠償金の支払いを命じるとともに、一審の横浜地裁に引き続き、行政訴訟において自衛隊機の夜間早朝飛行差止も命じた。横浜合同法律事務所から、関守麻紀子弁護士と海渡双葉弁護士が住民側弁護団に所属している。
2 画期的な将来の損害賠償命令
東京高裁は、口頭弁論終結日の翌日である平成27年5月15日から、平成28年12月31日までの約1年7か月余りの将来分の損害賠償金の支払いも命じた。平成28年12月31日という将来の損害賠償の終期は、日米再編ロードマップに基づく米空母艦載機の厚木基地から岩国基地への移駐時期をふまえてのものであった。
横田基地に関しては、平成17年11月30日、東京高裁(江見弘武裁判長)が、口頭弁論終結日の翌日から判決言渡日までの8か月ないし1年の将来分の損害賠償金を支払いを命じていた。しかし、この東京高裁判決は、平成19年5月29日、最高裁第三小法廷(堀籠幸男裁判長)が、大阪国際空港訴訟昭和56年12月16日大法廷判決に反するとして破棄した(ただし、田原睦夫裁判官、那須弘平裁判官の反対意見が付されるとともに、近い将来の然るべき事案における大阪国際空港訴訟判決の再検討を拒否するものではないとする藤田宙靖裁判官の補足意見も付された)。
平成19年最高裁判決の後に出された今回の東京高裁判決は、将来の損害賠償について大きな前進であったと言える。将来の損害賠償についての最高裁の判断が注目される。
3 米軍機の飛行差止めを
東京高裁は、米軍機の飛行差止めについては、民事訴訟においても、行政訴訟においても認めなかった。民事訴訟においては、支配の及ばない第三者の行為の差止めを請求するものであり、主張自体失当として棄却し、行政訴訟においては、米軍機差止請求にかかる訴えは、存在しない行政処分の差止めを求めるものであり、不適法として却下した。しかし、東京高裁は、厚木基地に離着陸する回数及び運航機数は米軍機によるものが多く、厚木基地周辺の航空機騒音のうちの多くを米軍機の発するものが占めており、特に著しく大きな騒音を発する大型ジェット機は全て米軍機であることが認められるとまで認定しているのであるから、米軍機の飛行差止めを認めるべきである。
東京高裁が米軍機の飛行差止を認めなかったことについて、沖縄2紙は、社説で以下のとおり厳しく批判している。
<沖縄タイムス>「米軍機の運用について司法も政府も規制することが出来ない状態で、果たして主権国家といえるのか。」「違法な水準にある騒音被害を放置したままでは、憲法で保障された基本的人権を守ることはできない。」 
<琉球新報>「米軍機飛行差し止めを視野に入れた判断を下すことは主権国家の司法のあるべき姿である。「静かな夜」を求める基地周辺住民の切実な訴えを「第三者行為論」で退ける司法の思考停止をこれ以上繰り返すことは許されない。」
住民が側が上告・上告受理を申立てたため、米軍機の飛行差止めについても最高裁で審理されることとなった。米軍機の飛行差止めについての最高裁の判断も注目される。
(中村晋輔)
.28 2015 基地問題 comment0 trackback0

【事件報告】護衛艦「たちかぜ」イジメ自殺訴訟  内部告発から得られた「完全勝利」

1 護衛艦「たちかぜ」イジメ自殺訴訟。護衛艦「たちかぜ」に乗艦していた21歳の1等海士が、先輩の2等海曹から執拗なイジメを受け、上官たちも2等海曹のイジメを放置し続けたことから、1等海士が自殺へと追い込まれた痛ましい事件について、国と先輩の2等海曹に対し、損害賠償を求めていた裁判です。
  被害者の自殺から今年の10月27日で丸10年になりますが、自分自身の中で、特に、絶対に負けられない裁判という気持ちで取り組んできた事件です。この事件で、2014年4月23日、ついに、東京高裁で、勝利判決を得ることができました。本当に最高の気分です。

2 判決の言渡は、通常は、裁判官が法廷に入って壇上の椅子に座ると、間もなく言い渡されます。しかし、社会的に注目を集め、テレビや新聞などで報道される事件では、判決の言渡の前にテレビカメラによる撮影が行われることがあります。
  この裁判でも、判決の言渡に先立ち、テレビカメラによる撮影がありました。テレビカメラによる撮影は、裁判官が法廷に入り、壇上の椅子に座ってから開始されます。個人的な経験の範囲の話なので正確でないかもしれませんが、撮影の時間は2分というのが一般的なように思います。
  2分というと短い時間ですが、判決言渡の前の2分間というのは本当に長く感じられます。法廷を静寂が支配し、身じろぎや咳払いをする人は一人もいません。そのような状況に加えて、何といっても判決の言渡を待つという状況が、余計に時間を長く感じさせます。

3 撮影が終わり、テレビカメラが撤収されると、裁判官が主文の言渡を始めます。刑事裁判で死刑が言い渡されるような重大な事案になると、主文の言渡が最後に回されることはありますが、民事・刑事を問わず、大半の事件は冒頭に結論である主文が言い渡されます。
  今回の判決でも、主文は冒頭に言い渡されました。裁判長が厳粛に主文を読み上げます。
  「主文、本件控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。」この瞬間、私たちが敗訴した原判決が変更されることが確実になりました。期待は最高潮に高まります。
  より一層、神経を研ぎ澄まして、裁判長の次の言葉を待ちます。
  「被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して○万円及びこれに対する平成16年10月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。」金額を聞いた瞬間、私たちが勝訴したことがはっきりしました。その金額は、被害者の自殺について加害者らの責任を認め、損害賠償を命じたと判断できるものでした。
  同時に、国が重要な証拠となるべき文書を隠していたことについても、裁判では損害賠償を求めていたのですが、その点についても、被害者の自殺に対する損害賠償とは別に、国の責任を認め、損害賠償を命じたことが主文の内容から分かりました。
  その時点で、新聞やテレビではお馴染みの光景となっていますが、裁判所の外にいる支援者や報道関係者に結論を伝えるための「旗出し」を行うため、担当の弁護士が法廷を静かに抜け出し、裁判所の外へと向けて走り出します。
  そして、裁判所の外で「完全勝利」の旗を誇らしげに掲げます。
  「勝った!」最高の瞬間でした。

4 イジメの被害者が自ら命を絶つという痛ましい事件は、昭和の時代から、幾つも裁判で争われてきました。被害者が陰湿で悪質なイジメを受けていて、イジメの原因が自殺にあることがはっきりしていれば、自殺について加害者や、あるいは学校や会社などに責任を負わせることを当然と思うのが、社会一般の自然な感覚ではないかと思います。
  ところが、法律の世界では、自殺は「特別損害」だと位置付けられています。つまり、イジメの被害者がみんな自殺するわけではないし、自殺は最後は本人の意思によって行われるものだから、普通は発生しない特別な損害であると扱われているのです。そのため、加害者らに被害者の自殺に対する責任を負わせるには、損害、つまり被害者が自殺することについて予見可能性が求められるのです。
  この自殺の予見可能性のために、これまで、多くの被害者の遺族が悔しい思いをしてきました。この裁判の第1審判決もそうでした。

5 今回言い渡された東京高裁の判決は、その予見可能性の壁を正面から完全に突破するものでした。
  裁判では、「たちかぜ」の幹部たちは、イジメの実態も、被害者が自殺を考えていたことも、いずれも知らなかったとする態度に終始しました。それは本当に無責任な態度でした。
  そのような「たちかぜ」の幹部たちに対して、東京高裁の判決は、乗員への聴き取りなどの調査を行えば、イジメの実態や被害者の置かれた状況を把握することはでき、それにより自殺を予見することは可能であったと判断しました。その上で、「たちかぜ」の幹部たちが、イジメの実態などを本当に認識していなかったとしても、そのことで責任が否定されるわけではないとも判決文の中で述べています。
  これは、イジメを防止して被害者を守るべき立場にいる者が、イジメの実態や被害者が自殺するかもしれない状況について、知らなかったでは済まされないということを示しています。イジメを防止する責任のある立場にいる者が、イジメの防止のためにやるべきことを怠っていたならば、イジメの実態や被害者の自殺の危険などを認識していなかったとしても責任を負わせるべきである、これは多くの人の自然な感覚に沿うものであると思います。
  そして、今回の東京高裁の判決は、これまで多くの被害者の遺族を苦しめてきた、自殺の予見可能性のハードルを下げるものとして高く評価できるものだと考えています。

6 同時に、今回の裁判では、第1審で国側の代理人を務めた3等海佐が内部告発を行い、「艦内生活実態アンケート」などの重要な証拠となるべき文書が隠されていることを明らかにしてくれました。
  隠されていた文書は、裁判の結論に大きな影響を与えました。3等海佐が、自らの身の危険を顧みず、勇気ある内部告発を行ってくれたことには、どれだけ感謝の言葉を述べても足りないくらいです。
  東京高裁の判決では、この文書の隠匿についても違法であるとして、被害者の自殺に対する損害賠償とは別に、国に対して損害賠償を命じました。
  国は、行政文書について、法律によって開示義務を課せられています。これを怠れば法律違反です。ところが、海上自衛隊では、本来行政文書として管理すべきものを「個人ファイル」なるものに綴じ、「個人ファイル」に綴じているものは行政文書でないとして法律に違反する文書管理を行っていました。その点を、東京高裁の判決は、明確に違法と断じたのでした。
  いくら行政文書について法律が開示義務を定めていても、国が恣意的に行政文書に当たらないと判断することを許していたのでは、法律が無意味になってしまいます。その意味では、東京高裁の判決が、行政文書として管理すべきものを行政文書として管理せず、開示を怠ったことを文書の「隠匿」にあたるとして違法性を認めたことは、情報公開制度のあり方との関係でも、とても意味のあることでした。

7 人は簡単に、悲しみは時が癒してくれるということを口にします。もっとも、私自身、この事件の原告の代理人を務めるまでは、そのように思っていました。
  しかし、この事件の原告と長く裁判を闘う中で、肉親を理不尽な形で奪われた悲しみは、絶対に一生消えることはない。そのことを痛感させられました。
  弁護士にとって、裁判の勝利というのは最高の喜びと栄誉でありますが、肉親を理不尽な形で奪われた原告にとって、その悲しみは、裁判の勝利によって癒されるものではありません。
  そうであるからこそ、イジメのような理不尽な形で、大切な命が失われる事態は、決して起こしてはならないのです。今回の裁判は、自衛隊内部で起きたイジメによる被害者の自殺という事件でしたが、イジメを絶対に許してはならないということは、全ての会社や学校に共通して当てはまることです。

8 東京高裁の判決に対して、国は上告を行わず、判決はそのまま確定しました。国が、東京高裁の判決を受け入れたということです。
  そうであるならば、防衛省・自衛隊には、一人一人の隊員の命と人権を最大限に尊重するという当たり前のことを今一度思い出して、自衛隊内部におけるイジメと自殺の防止に、徹底的に取り組むことを切望します。
  一つでも多く、同じ様な悲劇が繰り返されることを防止することが、理不尽なイジメのために21歳の若さでこの世を去った彼に対する償いと弔いになるのですから。(田渕 大輔)
.11 2014 基地問題 comment0 trackback0

宜野湾市が日米地位協定の違憲を求めて提訴へ

 私たちの事務所がある神奈川県は、沖縄に次いで国内で2番目に基地の多い県となっています。
 横須賀市で、奥さんを殴り殺された山崎正則さんの国家賠償請求事件など、私たちの事務所の弁護士たちが取り組んでおります。このように、駐留するアメリカ軍によって生まれた個別の被害者が裁判を起こしたり、基地に土地を取られている個人の地権者が裁判を起こしたりということは、これまでもありましたが、ついに自治体そのものが米軍用地の提供協定について提訴をする決断をしたようです。

「普天間基地用地提供は違憲」・・・宜野湾市が提訴へ(2010年7月3日 読売新聞)


 米軍普天間飛行場を抱える沖縄県宜野湾市は2日、日米安全保障条約に基づき同飛行場用地として市内の私有地などを提供している日米間の協定は憲法などに違反しているとして、国を相手にした協定の無効確認訴訟を今年度中に那覇地裁に起こすと発表した。基地の影響で必要以上の行政コストがかかっているとして、損害賠償も求める方針。法務省によると、米軍用地の提供協定について自治体が憲法判断を仰ぐ訴訟は初めてとみられる。
 発表によると、市は、同飛行場の周辺で騒音被害が長年続く状態について、他の自治体にはない特別な被害で、法の下の平等を定めた憲法14条に反すると判断。危険な基地が本土復帰後38年も存在し続ける状態は、著しく受忍限度を超え、違法だと訴えている。



 報道によると、基地の面積はなんと市の面積の約4分の1に当たる約480ヘクタールもあるそうです。
 米軍基地の負担が如何に過酷かつ不平等なものであるのかを正面から問う裁判、基地県以外の人たちも含めこの国に住むすべての人が注目すべき事件になりそうです。
 
  
                                             (阪田勝彦)
.03 2010 基地問題 comment0 trackback0
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